【犬猫の手作りご飯に塩を入れる理由】

犬猫の手作りご飯で、よく相談されることがあります。

「犬猫に塩を入れてもいいのですか」

「塩分は腎臓に悪いのではないですか」

「味付けしない方が安全ではないですか」

という内容です。

結論からいうと、犬猫にとって塩分は不要なものではありません。

食塩は、主にナトリウムとクロールからできています。

ナトリウムもクロールも、犬猫の体に必要な栄養素です。

体液のバランス、神経の働き、筋肉の働き、胃酸の材料などに関わります。

そのため、「犬猫に塩は危険」と単純に考えることは不正確です。

問題は、塩を入れるか入れないかではありません。

その子にとって、必要な量を適切に考えられているかです。

〈市販フードにはナトリウムもクロールも含まれている〉

総合栄養食として販売されている市販フードには、ナトリウムやクロールが含まれています。

これは、犬猫にとって必要な栄養素だからです。

AAFCOやNRCの栄養基準でも、犬猫に必要な栄養素としてナトリウムやクロールは扱われています。

つまり、市販フードを食べている犬猫は、毎日の食事からナトリウムやクロールを摂っています。

一方で、手作りご飯では、ご家族が意識して加えなければ、塩分が不足することがあります。

肉、魚、野菜、米などを中心にして、味付けをまったくしない食事では、ナトリウムやクロールが不足しやすくなります。

「自然な食材だけだから安心」

「味付けしていないから安心」

という考え方だけでは、栄養素を見落とすことがあります。

〈輸液から見えるナトリウムの必要性〉

犬猫の体にナトリウムが必要なことは、輸液を考えると分かりやすいです。

動物病院で行う点滴には、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、生理食塩水、維持輸液剤などがあります。

これらの輸液には、水分だけでなく、ナトリウムやカリウムなどの電解質が含まれています。

なぜなら、体から失われるものは水だけではないからです。

体液には、ナトリウム、クロール、カリウムなどの電解質が含まれています。

そのため、体調不良、脱水、嘔吐、下痢、手術後などでは、水だけではなく電解質も補う必要があります。

水だけを補えばよいわけではありません。

〈維持輸液という考え方〉

輸液には、維持輸液という考え方があります。

これは、動物が飲食できない状態でも、最低限必要な水分と電解質を補うための輸液です。

たとえば、胃腸の手術後や重い膵炎の回復期などで、食べたり飲んだりできない場合があります。

そのような時に、嘔吐や下痢などの大きな喪失がなくても、体は水分と電解質を必要とします。

体から失われる水分には、大きく分けて不感蒸泄と尿があります。

不感蒸泄とは、皮膚や呼吸から自然に失われる水分のことです。

尿は、体が水分バランスを保っている状態で排出する水分です。

一般的な計算では、不感蒸泄と尿量を合わせて、1日あたり体重1kgにつき約50ml前後の維持輸液量として考えます。

この維持輸液には、水分だけでなくナトリウムやカリウムなどの電解質が含まれます。

MSD Veterinary Manualでも、維持輸液ではナトリウム、クロール、カリウムなどの電解質を監視しながら管理することが重要とされています。

〈10kgの犬で考える維持輸液中の塩分量〉

ここで、10kgの犬を例に考えてみます。

維持輸液を1日50ml/kgで行うと、10kgの犬では1日500mlの輸液量になります。

仮に、ナトリウム濃度が40mEq/Lの維持輸液剤を使用した場合、500ml中に含まれるナトリウム量は20mEqです。

ナトリウム20mEqは、食塩として考えると約1.17gに相当します。

計算は次の通りです。

NaClの分子量は約58.5です。

40mEq/Lのナトリウムは、食塩として考えると1Lあたり約2.34gに相当します。

その輸液を500ml使用すると、食塩として約1.17gに相当します。

つまり、10kgの犬が維持輸液を受ける場合でも、1日あたり食塩換算で約1.2g相当のナトリウムが体に入る計算になります。

これは、あくまで輸液上の計算です。

食事としてそのまま同じ量を入れればよい、という意味ではありません。

しかし、犬猫の体にとってナトリウムが不要ではないことは、この計算からも分かります。

〈ナトリウム量と食塩量は同じではない〉

ここで注意したいことがあります。

ナトリウム量と食塩量は同じではありません。

食塩は、ナトリウムとクロールが結びついたものです。

そのため、「ナトリウムとして何mg」と「食塩として何g」は、同じ数字にはなりません。

ナトリウムだけの重さで計算すると、食塩量より少なく見えます。

たとえば、ナトリウム40mEqをナトリウム元素だけで計算すると、約0.92gです。

しかし、食塩として換算すると、約2.34gになります。

この違いを混同すると、必要な塩分量をかなり少なく見積もってしまう可能性があります。

手作りご飯で塩分を考える時には、「ナトリウムとしての量」なのか、「食塩としての量」なのかを分けて考える必要があります。

〈嘔吐や下痢では電解質の喪失も起こる〉

嘔吐や下痢がある時は、水分だけでなく電解質も失われます。

そのため、脱水の治療では、単に水を補うだけでは不十分なことがあります。

状態によっては、ナトリウム濃度のある輸液を使って、体液のバランスを補正します。

脱水補正では、脱水量、維持量、継続する喪失量を考えて輸液内容を決めます。

MSD Veterinary Manualでも、輸液計画では脱水量や電解質異常を評価しながら、必要な輸液を選択することが示されています。

たとえば、10kgの犬で5%脱水がある場合、失われた体液量はおよそ500mlです。

この体液には、水分だけでなくナトリウムやカリウムなどの電解質も含まれています。

そのため、嘔吐や下痢がある犬猫に対しては、状況に合わせて電解質を含む輸液を行います。

このことからも、体調不良時に必要なのは水だけではないことが分かります。

〈食事でも水分と電解質を考える〉

輸液では、水分と電解質をセットで考えます。

それなのに、食事になると「塩分はできるだけ避けるもの」と考えられてしまうことがあります。

これは少し不自然です。

犬猫の体は、日常生活の中でも水分と電解質を使っています。

尿、便、呼吸、皮膚から水分が失われ、体液のバランスを保つためにナトリウムやクロールも必要になります。

市販フードでは、このような栄養素も含めて設計されています。

手作りご飯では、その部分を人が考える必要があります。

〈塩分不足を疑いたい食事〉

手作りご飯で塩分不足を疑いたいのは、次のような食事です。

・味付けをまったくしていない

・肉と野菜だけで作っている

・米や芋を入れているが、塩を加えていない

・フードをやめてから、塩分を一切入れていない

・出汁や調味料を完全に避けている

・汗をかく季節や体調不良時でも同じ食事を続けている

・下痢や嘔吐があるのに水分だけを増やしている

もちろん、すべての子に同じ量の塩を入れればよいわけではありません。

犬猫の種類、体重、食事量、病歴、検査結果によって必要量は変わります。

しかし、「無塩が一番安全」と考えてしまうと、必要なナトリウムやクロールまで不足する可能性があります。

〈塩分を入れる目的〉

手作りご飯に塩を入れる目的は、人の食事のように濃い味付けをすることではありません。

目的は、栄養素としてナトリウムとクロールを補うことです。

塩を少量加えることで、

・ナトリウムを補う

・クロールを補う

・体液バランスを支える

・食事の嗜好性を少し高める

・手作りご飯の栄養バランスを整える

ことにつながります。

特に、食欲が落ちている子では、食事を食べてくれること自体がとても大切です。

食べない食事は、どれほど理論上よくても体には入りません。

〈過剰摂取には注意が必要〉

塩分が必要だからといって、過剰に与えてよいわけではありません。

塩分の過剰摂取や、水を自由に飲めない状態での塩分摂取は危険です。

MSD Veterinary Manualでは、過剰な塩化ナトリウム摂取は高ナトリウム血症や食塩中毒につながる可能性があるとされています。

つまり、塩分は不足も過剰も避けるべきです。

大切なのは、ゼロにすることでも、たくさん入れることでもありません。

その子にとって必要な量を考えることです。

〈腎臓病や心臓病では個別判断が必要〉

腎臓病や心臓病がある場合は、塩分の考え方に注意が必要です。

ただし、病気があるからといって、必ず完全な無塩にするという意味ではありません。

慢性腎臓病では、食べる量を確保することがとても重要です。

食欲が落ちて体重や筋肉が減ることは、生活の質にも大きく関わります。

心臓病では、病態によってナトリウム制限を考えることがあります。

一方で、食欲や体重維持も重要です。

そのため、腎臓病や心臓病がある子では、自己判断で塩を増やしたり減らしたりせず、検査結果や体調に合わせて考える必要があります。

〈犬猫に塩は危険、という表現について〉

「犬猫に塩は危険」という表現は、注意喚起として広がりやすい言葉です。

しかし、そのまま受け取ると誤解につながります。

正確には、

・塩分の過剰摂取は危険

・塩辛い人用食品は避けるべき

・水を飲めない状態で大量の塩分を摂ることは危険

・病気によっては塩分制限が必要な場合がある

ということです。

一方で、

・ナトリウムは必要

・クロールも必要

・市販の総合栄養食にも含まれている

・手作りご飯では不足することがある

という点も同時に理解する必要があります。

「塩は危険」ではなく、「不足も過剰もよくない」と考える方が、栄養学的には正確です。

〈手作りご飯では塩も栄養素として考える〉

手作りご飯では、食材を選ぶ自由があります。

その一方で、必要な栄養素を設計する責任もあります。

カルシウム、亜鉛、銅、ヨウ素、ビタミンD、ビタミンEなどと同じように、ナトリウムやクロールも確認したい栄養素です。

「味付けしていないから安心」

「自然な食材だけだから安心」

という考えだけでは、栄養バランスを見落とすことがあります。

手作りご飯では、塩を悪者にするのではなく、必要なミネラルとして適切に考えることが大切です。

〈当院での相談について〉

チップ宝塚動物栄養クリニックでは、犬猫の手作りご飯、療法食、フード、栄養管理について相談を行っています。

手作りご飯に塩を入れてよいのか。

どのくらい入れればよいのか。

腎臓病や心臓病がある場合はどう考えればよいのか。

今の食事でナトリウムやクロールが足りているのか。

このような内容は、その子の体重、食事量、病歴、検査結果を見ながら考える必要があります。

来院での栄養相談に加えて、遠方の方や来院が難しい方には、オンライン相談・オンライン診療も行っています。

手作りご飯を続けたいけれど栄養バランスが不安な場合は、一度ご相談ください。

〈まとめ〉

犬猫に塩は不要、という考え方は不正確です。

犬猫にとって、ナトリウムやクロールは必要な栄養素です。

市販の総合栄養食にも、ナトリウムやクロールは含まれています。

手作りご飯では、味付けをしないことで、塩分が不足することがあります。

輸液の考え方からも、体にとって水分だけでなく電解質が重要であることが分かります。

大切なのは、塩を避けることではなく、必要量を適切に考えることです。

病気がある子では、検査結果や体調に合わせて調整する必要があります。

犬猫の手作りご飯では、塩も栄養素の一つとして、正しく考えていきましょう。