てんかんと栄養学。発作のある犬猫で食事管理を考える理由

【てんかんと栄養学。発作のある犬猫で食事管理を考える理由】

犬猫のてんかんや発作について考える時、まず大切なのは、食事だけで判断しないことです。

発作には、さまざまな原因があります。

特発性てんかんのこともあれば、脳の病気、内臓疾患、低血糖、中毒、電解質異常、炎症、腫瘍などが関係していることもあります。

そのため、発作がある場合は、まず動物病院で診察を受けることが大切です。

食事や栄養管理は、診断や治療の代わりではありません。

しかし、発作のある子にとって、毎日の食事管理が無関係というわけでもありません。

薬による治療を行いながら、体調、体重、血糖、脂質、ミネラル、腸内環境、薬の副作用、食欲などを整えていくことは、発作のある犬猫の生活を支えるうえで重要です。

〈てんかんは、まず診断と治療が大切〉

てんかんとは、脳の神経細胞の過剰な電気的活動によって、発作を繰り返す状態です。

犬では特発性てんかんが比較的よく知られています。

一方で、すべての発作が特発性てんかんとは限りません。

初めて発作が起きた時。

発作の様子が変わった時。

発作の回数が増えた時。

発作後の回復が悪い時。

このような場合は、早めの診察が必要です。

特に、次のような場合は緊急性があります。

・発作が5分以上続く

・短時間に何度も発作が起こる

・発作後に意識が戻りにくい

・呼吸状態が悪い

・ぐったりしている

・急に性格や行動が変わった

・高齢になってから初めて発作が起きた

・中毒や誤食の可能性がある

このような場合は、食事相談よりも先に、救急対応や対面診療が必要です。

〈食事でてんかんを治す、という話ではありません〉

てんかんや発作のある子では、抗てんかん薬による治療が必要になることがあります。

薬を使う場合は、発作の頻度、発作の重さ、副作用、血液検査、肝臓への影響、食欲、体重変化などを見ながら調整します。

そのため、食事だけで発作を止めようとすることは適切ではありません。

一方で、食事は体の土台です。

毎日の食事が安定しているか。

体重が保てているか。

血糖の変動が大きくないか。

ミネラルが不足していないか。

薬を飲ませやすいか。

消化器の調子が安定しているか。

このような点は、発作のある子の生活の安定に関係します。

栄養管理は、治療の代わりではありません。

治療を支える土台として考えます。

〈マグネシウムと発作について〉

てんかんと栄養を考える時、ひとつ見落としたくない栄養素があります。

それがマグネシウムです。

マグネシウムは、神経や筋肉の働きに関わるミネラルです。

人の医療では、低マグネシウム血症が神経筋症状やけいれんに関係することが知られています。

また、動物でも、種によっては低マグネシウム状態が神経症状に関係することがあります。

ただし、犬猫のてんかんをすべてマグネシウム不足で説明できるわけではありません。

マグネシウムを足せば発作が治る、という単純な話でもありません。

それでも、発作のある子で、日々の食事やフード内容を確認する時に、マグネシウムを含むミネラルバランスを無視してよいとは思いません。

特に、尿石症への配慮などから、マグネシウムを極端に避ける考え方が広がった時期があります。

ストルバイト結石では、マグネシウムだけを悪者にして考えることはできません。

感染、尿pH、尿量、尿の濃さ、膀胱炎、排尿習慣など、複数の要因が関係します。

それにもかかわらず、「マグネシウムは少ないほどよい」という印象だけが一人歩きすると、別の栄養問題を見落とすことがあります。

〈低マグネシウム食をどう見るか〉

フードの設計では、尿路疾患への配慮としてマグネシウム量を調整することがあります。

それ自体が悪いという話ではありません。

尿石症の既往がある子では、尿の状態や再発リスクを考えた食事管理が必要です。

しかし、一般の犬猫まで、無条件に低マグネシウムがよいと考えることには注意が必要です。

マグネシウムは、体に必要なミネラルです。

不足も過剰も、どちらも問題になります。

大切なのは、尿路だけを見るのではなく、体全体として必要な栄養が取れているかを見ることです。

発作のある子では、特に神経、筋肉、代謝、食欲、体重、便の状態まで含めて確認したいところです。

〈AAFCO基準を満たしていれば十分か〉

市販の総合栄養食は、一定の栄養基準を満たすように設計されています。

AAFCO基準を満たしていることは、フードを選ぶうえで大切な情報です。

しかし、基準を満たしていることと、その子にとって最適であることは同じではありません。

体質、病歴、疾患、食欲、消化吸収、生活環境によって、その子に合う食事は変わります。

また、基準は集団としての栄養設計の目安です。

個々の犬猫が抱える症状や病気に対して、すべてを解決するものではありません。

てんかんのある子では、発作の頻度、薬、体重、便の状態、食欲、血液検査、尿路疾患の既往などを合わせて見ます。

「基準を満たしているから大丈夫」と終わらせず、その子の体に合っているかを確認することが大切です。

〈血糖と食事間隔〉

低血糖は、発作様の症状や神経症状に関係することがあります。

特に小型犬、子犬、食が細い子、持病がある子では注意が必要です。

てんかんと診断されている子でも、食事間隔が長すぎたり、食べムラが大きかったりすると、体調が不安定になることがあります。

そのため、発作のある子では、

・食事回数

・食事時間

・空腹時間

・食べムラ

・おやつの内容

・運動とのタイミング

を確認します。

何を食べるかだけでなく、いつ、どのくらい、どのように食べているかも大切です。

〈脂質とてんかん〉

近年、犬の特発性てんかんでは、中鎖脂肪酸を含む食事について研究されています。

中鎖脂肪酸は、一般的な長鎖脂肪酸とは代謝のされ方が異なります。

人のてんかんでは、ケトン食が治療の一部として使われることがあります。

犬でも、中鎖脂肪酸を含む食事やサプリメントが、発作管理の補助になる可能性について研究されています。

実際に、犬の特発性てんかんでは、中鎖脂肪酸を含む食事やMCTを用いた研究が報告されています。

ただし、これは油を足せばよいという単純な話ではありません。

脂質の種類、量、消化吸収、膵炎リスク、体重、便の状態、基礎疾患を見ながら考える必要があります。

特に、膵炎の既往がある子、脂質に弱い子、下痢をしやすい子では、自己判断で油を増やすことはおすすめできません。

〈MCTオイルを使えばよい、という話ではありません〉

中鎖脂肪酸やMCTオイルについては、犬のてんかんで研究があります。

一方で、すべての犬に同じように効果があるわけではありません。

猫で同じように考えてよいかについては、犬以上に慎重に見る必要があります。

MCTオイルは食品やサプリメントとして使われることがありますが、量が多いと下痢、嘔吐、食欲低下、体重変化などが起こることがあります。

てんかんのある子に脂質を使う場合は、

・今の食事内容

・体重

・便の状態

・膵炎の既往

・血液検査

・服用中の薬

・発作の頻度

・食欲

を確認しながら慎重に考える必要があります。

てんかんにはMCT、と短絡的に考えるのではなく、その子に合うかどうかを見極めることが大切です。

〈薬の副作用と食事管理〉

抗てんかん薬を使っている子では、食欲が増える、体重が増える、眠気が出る、ふらつく、肝臓の数値が変化するなどの副作用が見られることがあります。

薬の種類や量、その子の体質によっても変わります。

食欲が増えた子では、体重管理が大切になります。

眠気や活動量の低下がある子では、必要カロリーが変わることがあります。

肝臓の数値に変化がある子では、食事内容やサプリメント、併用薬も含めて確認が必要です。

てんかんの治療では、薬を飲むことだけでなく、薬を続けながら生活の質を保つことも大切です。

〈腸内環境と脳の関係〉

近年、人の医療でも、腸と脳の関係が注目されています。

腸内環境、炎症、代謝、神経伝達物質などが、脳や行動に関係する可能性が考えられています。

犬猫のてんかんで、腸内環境を整えれば発作が治るという単純な話ではありません。

しかし、下痢や嘔吐が続く子、便の状態が不安定な子、食事内容が合っていない子では、体調全体が不安定になります。

発作のある子では、消化器の状態も含めて、体全体を整える視点が大切です。

〈手作りご飯でできること〉

てんかんのある子でも、手作りご飯を使って食事管理をすることは可能です。

ただし、注意が必要です。

発作のある子では、栄養不足、極端な糖質制限、過剰な脂質追加、サプリメントの多用、薬との相互作用に注意しなければなりません。

手作りご飯で考えたいことは、

・安定して食べられること

・体重を維持できること

・タンパク質が不足しないこと

・ミネラルバランスを確認すること

・脂質の質と量を調整すること

・便の状態を安定させること

・薬を飲ませやすいこと

・食事時間を安定させること

・検査結果を見ながら調整すること

です。

てんかんの子に手作りご飯を使う場合は、自己流で極端な食事にするのではなく、体調や治療内容に合わせて設計することが大切です。

〈サプリメントについて〉

てんかんのある子では、さまざまなサプリメントが検討されることがあります。

マグネシウム、MCT、オメガ3脂肪酸、ビタミン、ミネラル、腸内環境に関わるものなどです。

ただし、サプリメントは、安全そうに見えるから何でも足してよいものではありません。

成分、量、品質、薬との相互作用、基礎疾患を確認する必要があります。

特に、抗てんかん薬を使用している子では、サプリメントを始める前に獣医師に相談することをおすすめします。

〈発作日誌と食事日誌〉

てんかんの管理では、発作日誌がとても大切です。

発作が起きた日時、時間、様子、発作前後の行動、食事、睡眠、薬の投与状況などを記録します。

食事と栄養管理を考える場合は、食事日誌も役立ちます。

記録しておきたい内容は、

・発作の日時

・発作の持続時間

・発作前後の様子

・食事時間

・食べた内容

・食欲

・便の状態

・嘔吐の有無

・薬の投与時間

・サプリメントの使用

・睡眠やストレス要因

です。

記録を続けることで、発作の傾向や生活上の変化に気づきやすくなります。

〈こんな場合はご相談ください〉

・てんかんと診断されている

・発作があり、食事管理も見直したい

・薬を飲んでいるが、体重が増えてきた

・薬を飲んでいるが、食欲や便の状態が変わった

・尿石症用フードを長く食べている

・マグネシウムやミネラルバランスが気になる

・手作りご飯にしたいが不安

・MCTや脂質の使い方を相談したい

・サプリメントを使ってよいか知りたい

・発作日誌や食事日誌のつけ方を知りたい

・来院すべきか迷っている

発作がある子では、不安なことが多いと思います。

食事だけで解決しようとするのではなく、診断、治療、生活管理、食事管理を合わせて考えることが大切です。

〈当院での相談について〉

チップ宝塚動物栄養クリニックでは、犬猫の一般診療に加えて、食事や栄養管理の相談を行っています。

てんかんや発作のある子については、まず発作の経過、診断内容、使用中の薬、検査結果を確認します。

そのうえで、食事内容、体重、便の状態、食欲、生活リズム、サプリメントの使用状況などを確認し、栄養管理としてできることを一緒に考えます。

オンライン相談・オンライン診療も行っています。

遠方の方や来院が難しい方は、発作日誌、食事内容、検査結果、動画などをもとにご相談いただけます。

ただし、発作の状態によっては、オンラインではなく対面診療が必要です。

緊急性がある場合は、すぐにお近くの動物病院を受診してください。

〈まとめ〉

てんかんや発作のある犬猫では、まず診断と治療が大切です。

食事や栄養管理は、治療の代わりではありません。

一方で、発作のある子では、体重、血糖、脂質、マグネシウムを含むミネラル、腸内環境、薬の副作用、食欲、便の状態などを含めて、毎日の食事管理を考えることが大切です。

低マグネシウム食がすべて悪いわけではありません。

しかし、マグネシウムは体に必要な栄養素です。

尿路だけではなく、神経、筋肉、代謝も含めて、体全体の栄養バランスを見る必要があります。

中鎖脂肪酸やMCTについては研究がありますが、自己判断で使うのではなく、その子の体調や病歴に合わせて考える必要があります。

食事は、発作のある子の生活を支える土台です。

薬、診療、生活管理、栄養管理を組み合わせながら、その子に合った方法を考えていきましょう。